「……すみません、私、お手洗いに……」



泣き顔を見られてたくなくて、前髪で隠すようにしてうつむいたまま立ち上がる。

けれど腕を強く掴まれてしまって歩みを阻まれてしまった。


今朝、薫くんの腕を振り払ってしまったことを思い出してジクジクと胸の奥が膿んだように痛み出す。

離してください、と訴える声を上げようと口を開けばあごを掴まれて上を向かされた。
思わずひゅ、と乾いた呼吸音が出て肩が大きく上下する。上手く息を吸えない。



「俺じゃダメなの?」



城谷さんの言っていることが理解できず、私は思わず眉根を寄せた。

掴まれた腕をそのまま引かれて温かい感覚に包み込まれた。



「俺を砂川君の代わりにしていいよ。君に触れられる距離に居られるならなんだっていいから」



その言葉に私は胸の中にぽっかり穴が空いたような錯覚を覚えた。