それがどんなに虚しいことだと分かっていても…。

あの時間は今までで一番幸せだった。


「新郎様は準備をお願いします」

「あ、はい。じゃあ先に行って待ってるから」

「ええ、後でね」

「……」


呼ばれた彼が入り口のドアへ向かう。
その時、彼と私の視線が交わった。


「……っ、」


それは一瞬だったと思う。
きっと3秒にも満たなかったかも知れない。

だけど、私にはとても長く感じられて。


一度深く閉じられた彼の瞼が、微かに震えた気がした。


そうして、まるでスローモーションのようにゆっくりと閉まるドアを眺めながら、私は目を閉じた。


何も見えない。
彼の顔も、姉の顔も、何もかも真っ暗で、
もしかすると、これからずっとそうなのかもしれない。

目を開けているのに、何も見えないまま時が過ぎていくのかもしれない。