僕と家族と逃げ込み家

『そうね、そんな女が気安く写真なんか載せちゃダメよね! 謎……ミステリアスガール……いいかも』

ガール? ちょっと引っかかったが、ひとまず黙っていたら、母はニヤける妄想から飛び出し、『じゃあ、ペンネームは“若月”“と”“まり”で“若月とまり”にするわ』と、よく分からない名前を登場させた。

こういうところが、奇想天外摩訶不思議な人なんだよな。

僕の思惑など関知せずみたいに、お気楽な編集さんはパチパチ手を叩き、母を尊敬の眼で見つめると声高らかに宣言した。

『いいですねぇ。響きがいい! それに決定しましょう!』と。

この瞬間、僕にとってとんでもなく迷惑な『若月とまり』という謎の作家が生まれた。

それが今では、押しも押されない官能小説界の女王だ。
全く、世の中どうなっているんだろう?

だが、母は雑誌などで『官能界の女傑!』とか『ピンクエロ作家女史』なんて紹介のされ方をすると……。

『失礼ね! 私の小説は愛よ! 愛を説く教本。だから、そこいらのイヤラシイ本と一緒にしないでくれる! どうせなら、“官能教師”とか“エロティシズムな教祖様”って書いてよ!』と怒り狂う。

母親だけど、もしかしたら血の繋がらない赤の他人かもしれない。そうあって欲しいと何度願ったことか。しかし、悲しいかな未だその願いは叶っていない。

こんなふうだから母の仕事には一切関知しないと決めたのに……やたら相手が絡んでくる。

そう! こんなふうに読み聞かせという形で……。