「恵、勉強、みてやるよ」

「えっ!」本当に驚いたというような恵の代わりに逢沢父が苦笑しながら訊く。

「恵が頼んだのかい? いいの? コイツ、塾嫌いでさぁ。春太なら任せられるけど、きっと骨折れるぞ」

「あっ、でも……」と僕は先手必勝とばかりに言っておく。

「希望の高校に合格できなくても、僕のせいにしないで下さいよ」

逢沢父が笑い出す。

「当然だよ。勉強を見てもらえるだけで有難いのに、コイツのオツムを君のせいにしたら、バチが当たる」

逢沢父が「なっ」と恵に念を押す。

「それって、私の頭が悪いって言ってるの?」

ムッと父親を見る恵に逢沢父が優しい眼差しを向ける。

「頭が良くても悪くても恵は可愛いから、存在するだけでいいんだ。出来の悪い子ほど可愛いって言うしな」

逢沢さん、それ、全然フォローになっていないから。
案の定、恵の顔が真っ赤な……赤鬼になる。

「えっと、その代わり、悪いんだけど、遊園地に一緒に行ってくれないか?」

「えっ!」と二人が揃って僕を見る。
こういうところ、本当、仲の良い親子だよな。

「……それってデートの誘い?」

恵の顔がパッと明るくなる。

「デート! それは許さん!」

今度は逢沢父が赤鬼になる。

「受験生がデートなど、もっての外だ!」
「受験生だから、気分転換も必要でしょう!」
「お前の場合、気分転換ばかりじゃないか!」

親子喧嘩勃発。

「いやいや、デートの誘いじゃありません」

慌ててフォローを入れる。
とにかく、落ち着いてもらわなければ。