「お前、本気で言ってんの?」
「うん。本気」

さっきまでのふざけた調子はなく、恵は真剣な面持ちで頷く。

「私も……ごめんねっ。春太の言ったことがあんまり的を得てたから……」

ああ、悔しかったんだ。こいつは幸助と同じで負けず嫌いだからな。
フッと笑みが零れる。

「僕は小学生しか見ない主義なんだけど」
「じゃあ、真理さんに苛められたって言う」

今度は脅しか。全く、こいつこそ子どもだな。

「で、お前、志望校どこにしたんだ?」

僕の質問には答えず、恵はグッと唇を一文字にすると下を向いてしまった。

何なんだ? 押し黙ったままの恵と玄関先で向き合い突っ立っていると、奥から声が聞こえた。

「恵、何をやっているんだい?」

声と共に逢沢父が現れる。

「おや、春太じゃないか、どうした?」

僕と恵に視線を走らせ、フンと鼻を鳴らすと「玄関先では何だから、上がりたまえ」と言う。

何か、その声がいつもより、一オクターブ低く感じるのだが……気のせい?

では、ないようだ。なんせ恵のことを溺愛する父親だ。異性が夕方訪ねて来るということが、例え、顔馴染みの僕でも許せないのだろう。