――もうちょっとだけ、そういう大人になりたくないと思う自分がいる。
大人になるということは、いいことばかりじゃない。

時にズルく馬鹿な振りをして化かし化かされ、自分に都合よく生きる。
そんな大人を僕は父の死後、たくさん見てきた。そして、それは否応なく僕自身にも訪れる未来だ。

綺麗事だけでは生きていけない、そういう大人にならなければこの世の中は生きていけない。

分かっている。分かっているからこそ、ここに来る子たちには、少しでも長く曲がらず真っ直ぐ素直に生きて欲しい。理想だがそう思っている自分がいる。

自分がそうなりたくないと思うから尚更そう思うのかもしれないが……。

でも……たとえ叔父に大人と認められなくてもいいけど、こいつたちと比べられ子どもだと思われるのは癪だ。その上、茜にこいつ等と同等に思われるのは物凄く腹立たしい。

だから、僕も少しだけ大人になることにした。
しかし、クソッ、恵に何て言って謝ろう。非を認めるのも大人の証だが……。

「悩める子羊たちよ、味見してくれないか?」

叔父がにこやかにデッドスペースに現れる。

「それ何?」

トントンと各々の前に緑色のゼリーが置かれる。
それをマジマジと見ながら健太が訊ねる。

「抹茶ゼリーだよ」

それってお子ちゃまにはどうなんだ?
案の定、健太と亮が顔を歪める。

「抹茶って苦いんでしょう。前、ママに一口貰ったけど、不味かった」

アハハと笑いながら叔父は「文句を言わずに食べてみて」と勧める。

「私は抹茶大好きです」

茜が嬉々と言い、早速「いただきまーす」とスプーンを持ち、ひとさじ掬い口に入れる。

「うわぁ、深い味わい。ちょっぴり感じるほろ苦さが……物凄く美味しいです」

食の評論家のような茜の感想に、叔父は満足そうに「ありがとう」と笑う。