「健太はただ嬉しかっただけだろ? 旅行に行けるのが」
「うん」
「でも、そういう時ほど相手を思いやる気持ちが必要かもな」

こんな偉そうなことを言っている僕も恵を怒らせたんだよな。

「僕、自慢する気も幸助を馬鹿にする気も……全然なかったけど……傷付けたのかな……」

健太がションボリ項垂れる。

「健太の優しい気持ちは幸助も分かっていると思う。そうであって欲しいと思う。でも、昨日は人の幸せを喜べる心の余裕が、幸助になかったんだろうな」

僕だって恵の優しい気持ちはよく分かっている。

「そんなに落ち込むな。幸助も健太も大人への階段を上っている最中だ。こんな風に何度も失敗して喧嘩し合って、お互いに学び自分を高めていけばいいんだ」

ああ、自分のことは棚に上げて、何たる空虚な言葉。空々しいにも程がある。
自分だって大人になり切れていないから、恵と仲違いしているというのに……。

「先生、分かった! 僕、幸助に会ったら『ごめん』って言う」
「ああ、いいんじゃない」

僕よりずっと素直でいい。

大人に近付くにつれて、『ごめんなさい』が言えないんだよな。変なプライドが邪魔をして。

こういう面倒臭い状態を自分の中で咀嚼して、相手と折り合いを付けて、丸く収めて生きていくってことが大人になるってこと……なんだろうけどなぁ……。