僕と家族と逃げ込み家

だから気を遣って言ってやる。

「僕のことは心配しなくていい。だから、恵は受験勉強に取り組んでくれたまえ。ってか、人の心配している暇ないんじゃないのか? 偏差値、まだ届いていないんだろう?」

フフンと勝ち誇ったように言うと途端に恵の機嫌が悪くなる。

「何よ、まだ五月じゃない! まだ大丈夫だもん」

ギッとひと睨みする。ウヘッ、怖っ!
そして、恵は踵を返すと地響きを立てて店から出て行った。

「あーぁ、怒らせちゃった」

溜息交じりに、茜がフルフル首を振る。

「本当、女心が分かっていないですね」

女心? 中学生になりたてが何を言う! あんなキレやすい奴が……まな板みたいな胸の奴が……女? プッと吹き出すと茜がギロッと睨む。

「春太先生は、頭と見た目だけですね。あとは……最低です!」

頭と見た目がいいなら最高じゃないか。モテ要素十分だろう。

「とにかく、恵ちゃんに『ごめんなさい』して下さい」
「なぜ? 謝る理由が分からない」

茜が長嘆息を吐く。

「男子って、どうしてこうも意固地なのかしら?」

健太、幸助、僕の順に目線を送り、茜はもう一度深い溜息を吐く。

「本当、子どもなんだから!」

健太と幸助が子どもだってことは分かるが、なぜ僕がその仲間に入れられるのだ?

釈然としない気分のまま、その日の塾は終わった。