「健太、それは飛躍しすぎだろう」

思わずそう口を挟んだが、健太の耳には届いていないみたいだ。
一粒の涙が呼び水となり涙腺を崩壊させたからだ。

「どうする、春太?」
「こういうの美山得意だろ?」

激しく泣き続ける健太に視線を置いたまま、どうしたものかと思案していると、突然笹口が口を開く。

「なら、よその子になればいい。俺の親がもう一人ぐらい養子を貰ってもいいと言っている。お前、俺の弟になれ」

いきなりどうしたんだ? ギョッと目を剥いたのは僕だけじゃない。その場にいる全員が目を点にする。だが、一番驚いたのは健太だ。瞬時に涙が止まる。

「そういう訳だから、岡崎姉、今日からこいつは俺の弟だ」

硬派な笹口は見た目もかなり怖い。着ているものはいつもダークな感じだし、真っ黒な髪は短髪だけどツンツン立っているし、何よりも三白眼の眼付きが鋭すぎる。

普段、ここでは抑え気味だが、茜は笹口にはあまり近寄らない。なのに……。

「――そんなのダメ!」

健太を抱き締めながらギッと笹口を睨んだ。でも、その瞳はウルウルしている。まるで叱られたチワワみたいだ。

「健太は私の弟です。岡崎家の大事な長男です。跡取り息子です。あげられない!」

ブルブル震える声で必死に言いながら、両手で健太を囲う。