僕と家族と逃げ込み家

「ちわーっす」

そこに現れたのは矢田幸助。
小学三年生ながら負けん気の強さはピカイチな奴だ。

それは顔にも現われている。
良い方に伸びればきっと大物になる、と僕は思っている。

「お前、今まで寝てたのか? 寝癖と畳の痕が付いてるぞ」

叔父が自分の後頭部と右頬を指し示す。

「ふん、寝る子は育つんだ! 俺は早く大人になるんだ」

幸助はツンツン立つ真っ黒な髪を手で押さえる。

「幸助君、それ、言葉の使い方が間違っているよ」

逢沢さんが含み笑いを浮かべながら、「それ頂くよ」と胸ポケットから手帳を取り出すとメモし始めた。

「アナログですね」

僕の言葉に逢沢さんが首を振る。

「パソコン、携帯、タブレット、ちゃんと使いこなしているよ。でも、やっぱりネタ帳は紙でなくっちゃ」

そんなものなのかと思いながら、使いこなせず渋々手帳に書いている母を思い浮かべ、使いこなせてこそ言える台詞だな、とそのカッコ良さに目を細める。

「おっちゃん、俺の言葉をタダで貰うつもりか!」

そんなつまらないことを考えていると、いつの間にか逢沢さんの脇に幸助が仁王立ちしていた。その眼が逢沢さんを睨んでいる。