僕と家族と逃げ込み家

「私はグラタンセットをお願いします。アフターでミルクティーをホットで」
「僕はハンバーグセット、飲み物はオレンジジュース」
「ここでランチとは珍しいな。お袋さん忙しいのか?」

逢沢さんが訊ねる。

岡崎家は両親揃って歯科医だ。だからといって、いつも子供たちを蔑ろにしているわけではない。

「はい、春休みなので」

長期休暇に入ると、いつも子どもたちが一斉に歯科医を訪れるそうだ。
――で、子どもに人気なのが、女先生である母親の方らしい。ゆえに超多忙だという。

だから、長期休暇中だけは二人の食事は『逃げ込み家』が賄うことになっているのだ。

「まず手を洗っておいで。それから水とカトラリーを運んで」

毎回言う台詞を僕は言う。

塾生はお客であってお客ではない。お金を払っているのは親だ。だから、サービスを彼等に提供する必要はないと叔父に言われた。できることは自分でさせる。それがこの塾の在り方だ。

そして、それは母と叔父の生家、間宮家の教えでもあるということだ。

二人は「はーい」と声を揃え、洗面台に行く。
本当、岡崎姉弟は素直でいい子たちだ。