「おはようございまーす」

バックヤードから厨房奥に出る。そして、厨房横のドアからホールに入る。

「あっ、逢沢さん、いらっしゃい」

カウンター席の中央で、カッコよくコーヒーを啜るイケてる中年男性に声をかける。

「おっ、春太、今日もイケメンだな」
「あざーす!」

本当、この人いい人。
逢沢健作さんはこのマンションに住む作家さんで、この店の常連さんでもある。

作家と言っても母とは雲泥の差がある超売れっ子の作家さんだ。ハードボイルド系の推理小説を得意として、サイン会もするしテレビやネットにもバンバン露出している。

「春太の父親がすっごいイケメンだったからな」

叔父がしみじみ言う。

そんなふうに言う叔父も、まぁ見てくれはいい。僕が塩系の顔なら叔父は醤油系のイケメンだ。ちなみに、逢沢さんはソースに近い醤油かな。

「真理さんの亡くなった旦那さん? 真理さんって、本当、面食いだな」

はい? なぜ逢沢さんがそんなことを知っているのだ?
――と思っていたら、「恵も面食いだからな」と言う。

ああ、出所はあいつか。

恵は逢沢さんの一人娘。余談だが、逢沢さんはバツイチ。
父一人子一人だからか、恵は母とトヨ子ちゃんを我が母のように慕っている。

しかし、僕はあんな可愛げのない妹は要らない。
僕より二歳下のくせに超生意気でいつも突っかかってくる。

だが、そんな奴でも父親の贔屓目ってやつか、逢沢さんは恵を溺愛している。