おまけにこの高校、長期休暇だからといって宿題などという決まりきった課題は一切出さない。

なぜなら、学校の方針が『興味ある学びをせよ! 自主的学習こそ学生の糧!』だからだ。

こんな自由奔放な高校なのに、有名大学への合格率は国内でベスト8に入る進学校だ。

そう! 僕の周りには、普通に天才や秀才がゴロゴロといる、ということだ。
自慢じゃないが、僕はその中でもダントツに頭がいい……みたいだ。

天才や秀才というものは、往々にして奇人変人が多くとても面白い――ということをこの学校に入って知った。

しかし、僕は決して『奇人』でも『変人』でもないし、まして面白くもない。クラスメートが言うには『飄々としてクール』だそうだ。

それは単に、学校に! 感情を高揚とさせるできごとがないからだ。プライベートは――不本意だが、本人の意思を無視しした激辛で刺激的な――心身共に翻弄される日々を送っている。

だが、今日はなんて暇で平和なんだろう。
平和すぎて欠伸が止まらない。

ふぁぁぁ、と目を擦りながらローテーブルに目をやる。

老舗和菓子店『桜の何処』の苺大福。それがテーブルの上に一つ鎮座している。期間限定で午前中には売り切れる、なかなかお目に掛かれない逸品だ。

ここの苺大福は二種。白花豆を使った白こし餡のと大納言を使った小豆粒餡。僕は当然、小豆粒餡派。これがそう。それに手を伸ばし「……ん?」と思う。

誰だっけ? 『大福の手触りって女の二の腕、それも内側のポニョとしたとこを連想させるよな』と言ったのは。

指先に伝わる柔らかな感触が妙な妄想を抱かせるが、同時にそんなところを触ったことなどない、という現実も思いしらされる。