えっ?

唇に温度を感じたのは一瞬だった。何が起こったか分からなかった。

「もーらい! 春太、好きだよ。もっと大きくなったらお嫁さんにして」

――どうやら僕はファーストキスを……奪われたらしい。そして、人生初のプロポーズを……されたらしい。

恵は言い逃げるように、僕の前から駆け出す。
その背を見ながら、唇に指を添え改めて思う。

キス……した?

徐々に込み上げてくる……何とも言えない甘味な思い。
胸がキュンと疼く。

そっかぁ、そうだったのかぁ。
他人のことはよく分かり、自分のことはよく分からないと言うが……本当だ。

恵がねぇ……僕をねぇ……。
口元が綻ぶ。

――ということは……これからどうなるかは僕次第ってことか?

ニヤリと笑うともう一度空を仰ぎ見る。
そこにいつか見た、あの大きな虹を思い浮かべる。

七色に輝く光の中に、僕と家族と逃げ込み家の面々が浮かぶ。

たとえ泣いたとしても、怒ったとしても、皆の笑顔が僕を笑顔にしてくれる。
僕も……皆を、ああ、そうだ、できる! 僕も皆を笑顔にする!

「よし!」と視線を戻すと地面をしっかり踏み締め歩き出す。この先で僕を待ってくれている人たちのところに、微笑みを携え……。





【僕と家族と逃げ込み家】
~The End~