僕と家族と逃げ込み家

追い出した?

「そう。でも、アメリカで不自由なく暮らせるようにして追い出したのよ」
「じゃあ、源さんはよい父親だったんですね。誤解していました」
「トヨ子ちゃんがそう思うのも無理ないわね」

喜子さんがしみじみと言う。

「誰だって当時のことを聞けば、源さんが親子の仲を裂こうとしているとしか思わないわよね」

「でも、それだけじゃないんです」とトヨ子ちゃんが言う。

「私見ちゃったんです。あの時の親子喧嘩」
「あの時って、源さんが亡くなる三日前のこと?」

「そうです」とトヨ子ちゃんが答える。

「あれも虫が知らせたのかしら? 一人前になるまで絶対に帰ってくるなって言ってた源さんが、明穂ちゃんを呼び戻したんだから」

そうか、源さんの葬儀で急遽帰国したんじゃなかったんだ。

「だからだったの? あの日、トヨ子ちゃんがメチャ怒ってたの」

アハハと笑い、「あの時、超、怖かった」と言う母に対してトヨ子ちゃんが言う。

「あれは、先生がグダグダ言って原稿を書き進めないからです!」

母よ! 墓穴を掘ったな……と笑いを噛み締めて話の続きを聞く。

「でも、あれってトヨ子ちゃんが思っていることと逆のことで喧嘩になったのよ」

喜子さんの言葉に「えっ?」と疑問の声が上がる。

「逆って、意味分かりません」