「明日、亮君ママが帰国するんですって」

七月最後の日、母が何気なくそう告げた。
明日は塾の皆を市民プールに連れて行く約束をしていたのに……亮は来るだろうか。

「……なぁ、母さん。亮のことだけど」
「何?」
「あいつ、うちの子にしない?」

キーを叩く手を止め、母が老眼鏡を外す。

「いきなりどうしたの?」
「亮、アメリカに行きたくないみたい」

母がじっと僕を見る。

「知ってたんだ」
「亮から聞いた」
「それで? 親子の仲を引き裂くんだぁ」

何だその棘のある言い方。

「引き裂くって、とっくの昔に壊れてるだろ」

母がクスッと笑う。

「何だかんだ言っても、やっぱり春太ってまだ子どもね」

フフンと鼻で笑う母に、一瞬だけ殺意が芽生える。ムカつく!

「あんたは手を出さず口も出さず、亮君のことを温かく見守っていればいいの」
「それで万事解決するのかよ!」

声が苛立つ。

「そうよ。親子の問題に他人が口を出すものじゃない、ってこと」