「……僕ね、お祖父さんが亡くなるまで、母さんのこと何も思っていなかったんだ。だって、母さんのこと何も知らないんだもん。思う材料もないよね」

亮がお茶をコクンと飲む。

「でも、お葬式の日、母さんを見たら……初めて憎いって思った」

当然だ。

「……そしたら、いろんな感情が出てきて、どうすればいいか分からなくなっちゃった」

亮の頭を黙って撫でる。

「……お祖父さんが前にね、人を憎んではダメって言ったんだ。憎んでも自分の徳にはならないって。憎む気持ちを許しの気持に変えれる人が真に強い人だって」

源さん……深いぃぃ!

「……でも、僕はまだ全然強くなくて……だから、憎くて憎くて……」

亮の両手がペットボトルをギュッと握り締める。
こんなにストレートに感情を出す亮は初めてだった。

「――憎くみ切れないほど、憎くて……」

亮が僕の方に視線を移す。

「僕、この気持ちをどうしたらいいの?」

縋り付くような……助けを求めるような……そんな瞳に僕はたじろぐ。