「――母さん、有名人なんだ。見てたでしょう、僕が本を読んでたの?」

気付いていたのか。

「あの本、母さんのなんだ。前から知ってたけど、見たくなくて見たことなかったけど……今日見てビックリした。母さん、本当に凄い人なんだって思った」

あとでコッソリ見てみよう。

「でも、それだけ……」

ん? どういう意味だ?

「それだけなんだ……母さんへの思い」

亮が残った氷水を飲み干す。

「母さんが……アメリカで一緒に暮らさないかって」

「えっ!」亮を見る。

「先生……僕、やっぱり冷たいお茶が欲しい」

珍しく自分から欲する亮に、「了解!」と即座に答え立ち上がる。

アメリカだ? 亮を何だと思ってるんだ。ずっと放っておいて!

店の中はクーラーが利いていた。
暑さはスーッと消えていくけど、怒りの方はどんどん増していく。

本当に大人は勝手だ!

親の都合で子供は何とでもなると思っているのか!
そんなことを思っている奴は、皆、バカヤローだ!