「エビフライ……いいなぁ」

財布を取り出しながら健太がポツリと呟く。
さっきのことも気にせず亮が迷わず言う。

「僕のあげる」
「えっ、くれるの?」

健太の顔がパッと笑顔になる。

「僕ね、朝はグラタンが食べたかったんだ。でも、今はエビフライがすっごく食べたい! 亮、ありがとう」

さっきの怒りはエビフライと交換で消え去ったようだ。

しかし……ここで亮の食事を減らすわけにはいかない。
叔父に頼んでグラタンにエビフライを付けてもらうことにする。

そして、ここに難しい顔をした子がまた一人。

「二胡は何にするのかな?」
「うーん」

二胡はお金を持たない。栗林母が迎えに来た時に支払って帰るからだ。
本人はそれが不服らしい。

それにしても、物凄く悩んでいる。

まぁ、何にでも真剣に悩めるというのはいいことだ。
たくさん悩んで大きくなれ!

二胡の頭をクシャッと撫で、「ゆっくり考えて」の言葉を残して叔父の方に向かう。

◇◇◇ ◇◇◇

部活の帰り道。

「亮はどうだ?」

笹口が聞く。

「表面は変わらない」
「そういう子ほど、内でいろんな思いを溜め込んでいるんだよね」

美山が綺麗な顔に影を落とす。憂いを秘めたその顔に、思わずドキンと胸が鳴る。

こいつ人を惑わす妖術でも使うのか?
だが、その術にかかったのは僕だけではなかった。