源さんは眠るように逝った。

「大往生だったわね」
「お仕事中だったんでしょう」

葬儀場に集まった人たちから次々と聞こえる声。
医者が言うには、血栓が心臓に飛び、一気に意識を失い、苦しみもなく亡くなったそうだ。

大往生と言えば、そうだろう。でも、それは源さん自身のことだ。
亮は別れの挨拶もできなかった。

棺の側でジッと一点を見つめ座る亮。
あいつは……今、何を考えているんだろう。胸が痛い。

「あっ……」

母が出入り口付近に目をやり、小さな声を上げる。
その声に釣られてその方向に目をやる。

喜子さんと……見知らぬ女性が入ってきた。どことなく亮と似ている。歳はトヨ子ちゃんぐらいだろうか?

「彼女、亮君のお母さん。小笠原明穂さんよ」

母は明穂さんが来ることを喜子さんから聞いて知っていたらしい。

「明穂さんと喜子さんは年の離れた幼馴染らしいわ」

二人が亮の側に歩みを進める。

亮は、明穂さんが腰を落とし目を合わせて初めてその存在に気付いたようだ。
あっと一瞬口を開けたが、すぐまた固く一文字に結び、俯いてしまう。