「……好き? 俺が……好きなのか美山のこと」

ガーンと効果音が聞こえてくるような顔だ。

「だと思うよ。だから、自然とキスできたんじゃない? 男同士でも」
「――それって変じゃないのか?」

戸惑いながら笹口が訊く。

「一般的に言えば変って言えるのかな? まぁ、今の世の中、同性愛も珍しくなくなってきてるけどな。ドラマでも大受けだったみたいだし」

「それに」と言いながら、僕は自分の周辺の人たちを思い浮かべる。

「変な奴だったら他にいっぱいいるし、笹口と美山が変だったら、そいつらはド変人だと思う」

そう! 愛しき変人たちばかりだ。

「胸が痛くなるほどドキドキしたり苦しくなったりするのって、それ美山のことを考えて、だろ? それは美山に恋してる証拠だよ」

キスもしたことのない僕だけど、我が家にはあの小説を書く、自称、愛の伝道師がいる。知識だけは豊富だ。

「……知らなかった」

笹口がポツリと呟く。そして、スックと立ち上がる。

「俺、美山のところに行ってくる」

その顔は今日の空のように晴れやかだ。

「あぁ、行ってらっしゃい」

清水の舞台から飛び降りてみるがいい!
きっと見えてくるはずだ。真実が。

ヒラヒラと手を振り、サッサと行けと顎を突き出す。
笹口が、眩しい光の中を全速力で駆けて行く。

「グッドラック」

その背に呟き、残りのサイダーを一気に飲む。
「クー」ツンとくる!

そして、湧き上がる淋しさ。
また、取り残されてしまった。

僕の好きはどこにあるんだろう。
僕もいつかキスができるのだろうか……。