僕と家族と逃げ込み家

『何を?』と問うと『小説を』と答えた母。
あまりに突飛な言葉で一瞬何も言えなかった。それでも気を取り直し……。

『――えっと、小説って、母さんが書いたの? って、書けるの?』と訊ねると、フフンと鼻を高くし答えた。

『あら失礼ね。文学部卒よ!』

遠い目で、窓の外の高い空を見つめながらフッと笑を浮かべたその姿は、全身黒尽くめの……魔女。

今、思い出してもあの姿は怖い! その魔女が更に言った。

『そうそう、高等部の時だって文芸部のマドンナって言われていたわ』

誰のこと言っているんだと思った。

『始まりは小学部。物書きクラブに所属した時、短編の書き方とか、エッセーの書き方を教えてもらったわ……その頃は天使的な美少女って言われていたのよ』

――天使……悪魔の間違いじゃないのかと反論したかった。

『それでね、さっき連絡が入ったの。大賞だって』

不思議な単語のオンパレードに、僕の頭はヒートアップ寸前だった。

『大将ってどこの?』
『大将じゃなくて、た・い・しょ・う!』
『何の?』
『何のって、さっきから言っているじゃない、小説!』

しょうせつ……小……説……小説! 大賞ぉぉぉ、と叫んだのは当然のことだろう。