僕と家族と逃げ込み家

保険会社は『事故にて死亡』ということで、満額一千万円を実にあっさり支払ってくれた。だが、それだけだ。

『こんなことだったら、十億ほど掛けておくんだった』と葬儀の日、母は冗談なのか本気なのか恐ろしい言葉を呟いた。

極々普通のサラリーマンだった父。死亡退職金も出たが、それらを合算してチョビチョビ使ったとしても、僕の教育資金もまだまだ必要だし母の老後の資金も必要だ。

日々の生活費だってこのご時勢、馬鹿にならない。
母はそのことを考えそんなことを口走ったのだろう。

結局、お金になりそうなのは、当時、住んでいた中古のマンションだけだが、それを売ってもそれほど大したお金にならないだろうと売却はしなかった。

それよりも住むところを確保しておく方が大事だと悟ったからだ。

でも、このままだったら大学は無理かも? いやその前に高校だ。行けるのだろうかと僕は青ざめた。

今なら、奨学金を貰ってとかいろいろ考えただろうが、当時の僕は母同様、まだ世間知らずで何も考えられないほどテンパっていた。

資格もなければ手に職もない母と共に、近い将来路頭に迷うかもと悲観的な未来に絶望すら覚えていた。

ところが、父が亡くなって一年経った初春のうららかな日。

相変わらず喪に服し、全身黒尽くめの母が『応募しといたの』と、服装に相反するキラキラな笑顔を浮かべて奇妙な単語を発した。