――で、美山は笹口の名前を出されたものだから、奴に迷惑を掛けたくなくて距離を置こうとしたらしい。

何て健気な奴なんだ。でも……その健気さも、鈍感笹口には届かなかったみたいだ。

『馬鹿か! そういう時こそ俺が側にいなくちゃいけないんだろう!』とまた怒鳴ったらしい。

そこまで聞いてハタと思った。

もしかしたら笹口は自分の気持に気付いていないだけで、本当は美山のことが好きなのではなかろうかと……。

美山は美山で、それを聞いて、ただ『ごめんなさい』と謝ったようだ。
笹口の言動に何も感じなかったのか?

二人共……超天然?

とにかく、その後、美山を泣かせた三人は、笹口に『正義の鉄拳!』と称する愛の鞭でボコボコにされたらしい。

自業自得だが……ご愁傷様だ。
でも……なぜ笹口だけ名指しされるんだ? 僕だって美山の側によくいるのに……不思議だ。

 ◇◇◇ ◇◇◇

「春太、楽しそうだね」

恵がジト目で僕を見る。
彼女の前にはうず高く積まれた問題集。もう猛勉強は始まっていた。

「鬼! 悪魔! こんな問題解けない!」

さっきから泣き言ばかりだ。

「濱永に行くんだろ!」

途端にグッと言葉を飲む恵。