次の日、「ねぇねぇ」と健太が僕の側に擦り寄ってきて耳打ちをする。

「何か変だよ?」

健太の目が斜め前を見る。
そう思うのも当然だ。

昨日までソッポを向き合っていた幸助と二胡が、今日は仲良く肩を並べているのだから。

「何かあったのか?」

笹口まで目を丸くしている。

幸助は算数の宿題を、二胡は漢字の書き取りをしながら、時々、幸助が何か言うと二胡が笑みを浮かべる。周りなんて全く気にならないようだ。

少しソッとしておいてやろう。
「さあな」と答え、逆に「美山は?」と訊ねる。

途端に笹口の顔が曇る。

「用があるんだと、あいつも何か変だと思わないか?」

昨日の美山を思い出す。

「お前、無意識に何かしたんじゃないのか?」
「そう思って、胸に手を当て考えてみた。でも、全然、何も思い当たらない」

でも、何か思い当たる節があるから胸に手を置いたのでは?

どう考えても、昨日の美山の態度は笹口が関係している……と思っていると、亮が「先生」と小さく呼ぶ。

「――あのね……美山先生、泣いてたよ」

僕と笹口の会話から、思い出したように言う。
笹口と顔を見合わせ、二人同時に「泣いていた?」と亮を見る。