「花さん相変わらず早いっすね」

「田辺くんが遅いの。早く来たのはこの前の一回だけじゃない」

「まぁ、それを言われると何も言い返せないっていうか…」

「言い返さなくていいから」


私が来た二十分後に姿を現した田辺くん。
寝癖をつけたままの状態で大あくびを披露した彼は、大学を卒業した社会人にはやっぱり見えなかった。


「もう、いいからこっちに来て」

「な、何ですか?」

「いいから」


怒られるとでも思ったのか、恐る恐る近づいてくる田辺くんを見て、複雑な気分になる。自分で言うのもなんだけど、私はそんなに怒りっぽくないし、むしろ温厚な方だ。

目の前まで来た彼のネクタイにゆっくりと手を伸ばす。


「曲がってる」

「おおー…」

「何?」

「いや、ちょっと感動して…」


そう言いながら口元を手で覆う田辺くん。

意味が分からない。