「すみません、これお願いします」
頭の中であれこれ考えているうちに目の前に来ていた彼は、私に分厚い本を差し出した。
「…図書カードはございますか?」
「これ…、」
「お預かりします」
いつもしている作業なのに、何故か焦って手間取ってしまう。
目の前に立つ彼が変に思っていないか不安になった。
「あの」
「はいっ…?」
急に掛けられた声に驚いて、声が裏返ってしまう。
最悪だ。
「……」
「……」
「この間は大丈夫でしたか?」
「え…?」
「怪我とかしてなかったかなって…」
「……」
思いも寄らなかったことを言われキョトンとしてしまう。
あの脚立のことを彼はすっかり忘れていると思っていたから。
「あの…?」
「あっ、大丈夫です。大丈夫」
「そうですか。良かった」
そう言った彼が、本当に安心しているように笑うので、私までつられて笑ってしまった。

