「本当にありがとう。助かりました」
「いえ、俺の所為でもあるので」
「え…?」
彼の言っている意味がよく分からなくてそう聞き返すと、男の子は無邪気に笑って驚きの事実を告げた。
「その本、俺が借りたんです」
「はい?」
「また来ます」
「えっ?…あの、ちょっと待って、」
綺麗な笑顔を残して去って行く彼の手には、もう一冊同じような分厚い本が抱えられていた。
「……高校生、よね」
私の口から漏れた驚きの声。
それが男の子の耳に届いたのかは分からない。
けれどその時、後ろ姿の彼がほんの少し笑ったように見えた。

