生 意 気 な お 隣 さ ん *








「七瀬ー、」

「………なんですか、不破先輩」


「早く終わらせてくんない?それ」

「じゃあ手伝──」

「一緒に残ってくれてる事を感謝しなよ」







同じ国語教師の不破 元成(ふわ もとなり)先輩。
毒舌な男性教師で、結構な人にモテている。

この人もイケメンって奴だ。







「けっ、イケメンが」

「帰るよほんと」

「ごめんなさい、不破先輩」







冷たいけど何気に優しさを持ってるから
そういう大人っぽさがモテるらしい。

問題を纏めて
今日の仕事を終わらせる。


終わったぁ!と背伸びをすると
不破先輩が溜め息を深く着いた。








「んじゃ、早く帰る支度して」

「………はぁい」

「遅いもっと早くしろ」

「イエッサー!」








残業を終え、
気持ちよく伸びをしながら

不破先輩の横を並んで歩く。









「ほんと、生徒からはモテるくせに仕事は遅いよね」

「へへ、生徒からモテますかなぁ〜」

「……いい所しか聞いてないね」









"俺、七瀬のそういう所嫌い"
とビシャッと私をノックアウトさせると

彼は玄関の鍵を閉めて
自分のポケットの中にしまった。









「不破先輩って、理事長の息子なんですよね」

「まあ……。だから、あんまりここは居心地のよいものじゃないね」


「そう、ですか」

「七瀬は逆に能天気すぎて面倒臭いけど」

「ええっ面倒臭いですか?!」








"はは、めんどくさい"
と笑う彼に私は小さくショックを受ける。


いい笑顔で凄い事言うなぁ、


なんて。






「あれ、駅まで送ってくれないんですか?」

「お前何様?俺はそんなに優しくないよ」


「………この暗い道を一人で帰れと?」

「そうなるかもね、」

「………不破先輩のケチ、鬼、」






「俺は鬼だからもう二度と待たずに鍵閉めてやるよ」

「待ってください不破さま!!!」







"身分が分かればよし"
と鍵を見せながら笑う彼に

私は一人で帰りますよ!と大股で帰ってると

後ろから小さく







「気を付けて帰りなよ」






と、声が投げかけられた。


そんな優しい言葉が小っ恥ずかしくて
振り向けられずにもっと大股で歩いてしまう。




優しい不破先輩の事だから、

多分これから用事があって無理して残っててくれたんだろう。







「(……これは、勝手な私の妄想だけど)」