「片切くーん??聞いてる??」と、僕を呼んだのは化学の担任、確か[山野美紗子(やまのみさこ)]先生。
眼鏡をかけているせいか、老けてみえる。
34歳っていう噂なんだけど。

その時、僕は窓から景色を見ていた。
蝉の鳴く声が、教室じゅうに響いている。

「はい。聞いてます。」

全くの嘘だ。ハッキリ言って、山野先生の授業を真面目に受けたことなんか一度もない。

「…そう。ならいいんだけど。」

それだけ言って、山野先生はまた授業を始めた。
山野先生は、同じ人を二回も注意しない。
どんなに注意を聞かなくても、怒るのはたった一回だけ。
先生が、授業を始めたと同時に僕もまた、外を覗く。

緑色の葉が、風に揺られている。
その中で、アブラゼミが鳴く。
しばらく見つめていると、一枚の葉が、ひらりと地面に落ちていった。

もうすぐ、学校の1日が終わる。
普段ならそのまま家に帰るけど、今日は別。
[糸瀬瑠璃]に会いにいかないといけないから。
どんな人かな。なんて期待を膨らませて、時間が過ぎるのを待った。