・瑠璃がここにいたらきっと気分が晴れるのに・

いつのまにかそんなことばかり考えていた。
でも、僕の心の中は今でも葛藤を続けていた。

まだ矢嶋瑠璃が好きなんじゃないのか?
本当は忘れられてないんじゃないのか?

そんな不安が日々積もっていった。
僕の心はいつでも、暗く曇っていた。

キーンコーンカーンコーン…

憂色に染まった僕は、チャイムの音で我にかえった。
「次の授業、何?」
隣にいた[松石夕夏(まついしゆか)]にたずねた。
彼女は、おとなしくて頭が良かった。
いわゆる優等生ってやつ。
隣にいても、話すことなんか全くなかったし、向こうだって僕のいうことなんか気にしてないだろう。
「古典だよ。」
目を合わせずに、静かに言った。
「サンキュー。」
それだけ言って、前に向いた。
先生が入ってきたからだ。
「はい、皆席について下さい。」
古典の中川先生。
女子生徒からは人気があるが、外見がいまいちだ、と言って男子生徒からはあんまり人気がない先生だ。
ただでさえ、授業を真面目に受けてない啓なんて、名前さえも覚えていないだろう。
僕も、古典は苦手だから全然話を聞いていない。
名前を覚えたのなんか、ついこの前。
皆に、話したら爆笑された。

キーンコーンカーンコーン…

バッと顔をあげる。
知らないうちに、寝てしまっていた様だった。
そこにはすでに先生はいなくて、皆は次の授業の準備をしている。
今は休み時間なんだ。
「ふぁあぁ。」
あくびをしたと同時に、廊下の方から大きな声が響いた。