菜々は家とは反対の空港行きの電車に乗った。



 空港の展望台へ出ると、気持ちのいい風に吹かれほっとする……


 コーヒーを片手に、お気に入りの場所に立つ。


 滑走路にライトが並び、大きな機体が離陸準備を始めている。


 今日は色々な事があった。

 結果、菜々は一人でこの場所に居る事に少し淋しさを感じた。


 何故、人を好きになると、こんなに苦しくなるのだろう? 

 ただ、好きなった人に好きになってもらいたい、それだけの事なのに……


 恋をした途端、嫉妬、焦り、迷い…… 

 どれだけの想いに苦しめられ、そして人を苦しめてしまうのだろう? 

 ただ、好きになってしまっただけなのに……


 滑走路に入った機体がスピードを上げだした。

 大きな音が体の内側に響いてくる。

 大好きな離陸の瞬間だ……


 菜々の横に人が立った気配を感じた。

 せっかく、いいところなのに邪魔をされムッとなった。


「俺も、この瞬間好きなんだよな……」

 その声に菜々は恐る恐る振り向いた。


「部長?」

 遥人はあの時の和らいだ顔をしている。

「全く、いくら呼んでも無視するし…… 携帯は出ないし…… 工場に電話して兄さんに聞いたら、多分ここだって言われて……」


「私、何かミスがありましたか?」


「相変わらずだな…… 仕事のミスでここまでは来ないよ……」


「それじゃぁ、どうして?」


「あんな許され方しても、俺は嬉しくないから……」


「じゃあ、どうすれば……」

「いいよ。一生ゆるしてくれなくて、俺一生償うから……」


「ええ。実は私も許せている訳ではないので」


「ぷっ」
 遥人は吹き出して笑った。

 遥人の笑った顔など初めて見る。

 又、菜々の胸がキュンと苦しくなった。


「なにがおかしいんですか?」


「いいや、本当に頑固だな……」


「そうですか? かなり怒れる事態だったと思いますけどね…」


「本当に…… ごめんね……」

 部長は軽く笑う…… 

 その顔があまりにカッコよくて許してしまいそうになるが、菜々はぐっと堪えた。