菜々は昼休み、休憩室からの声に足を止めた。


「亜美さぁ、あんまり懲りて無いみたいだよね…… あれだけ大きな問題になれば白石部長も呆れると思ったんだけどな…… 亜美も怖がると思ったんだけど……」


「ねえ、次はどうする?」

 どうも遥人のとりまき達の声らしい……


 菜々は、拳をぎゅっと握りしめ休憩室のドアを、バシッと叩いた。


「あんたたちの仕業だったのね」


 菜々の声は冷静だが厳しいものだ……


 とりまき達の顔も青ざめる……


「べ、別に証拠なんてないでしょ。生意気だからちょっと懲らしめてやろうと思っただけじゃない……」


 菜々はもう一度ドアをバシッと叩いた。


「ちょっと? そのちょっとが、どれだけの人に迷惑をかけたと思っているのよ! もう少しで取り返しのつかない大損害になる所だったのよ!」


 菜々の険しい声に、とりまきたちは下を向いている。


「でも、桜井さんだって白石部長のとりまきだったじゃない…… 亜美に部長を取られて悔しくないの? そんなもんなの?」


「そりゃ…… 私だって悔しかったわよ。でも、やり方が違う! 今回の事で一番ダメージが大きかったのは部長よ!」


「……」

 取り巻き達は言葉を失ってしまった。


「それに、仕方ないじゃない…… 亜美ちゃんは素直で可愛いんだから…… 私がいくら頑張っても無理よ」


「そんな風だから、桜井さんは部長に相手にされないのよ! 美人で頭が良くて、しかも自信満々で、男なんてどうにでもなる人には、私達の気持ちが分からないのよ!」


「そんな事……」



 『バシッ』


 又しても、激しくドアを叩く音に、菜々もとりまきも目を向けた。


「白石部長……」


「話は良くわかった。今回の件は俺にも責任はあるようだが、きみ達の事は問題事例として上にあげさせてもらう」


「ぶ、部長……」

 とりまき達の顔が青ざめる。

「どれほどの社への影響があったのか、しっかり反省して下さい」

 部長の厳しい言葉にとりまき達は悔しそうに下を向いていた。


 もう、これで亜美への嫌がられは無いだろうと、菜々はほっとしていた。



「おい、桜井行くぞ! 新商品のバージジョンアップの打ち合わせだ!」


「あっ、はい!」


 菜々は、急ぎ足で休憩室を出て行く遥人の後を追った。