遥人は亜美と仕事の後で食事の約束をしていた。



「亜美ちゃんどうしたの?」

 菜々の声だ……


「えっと、まだこの書類の入力が終わらなくて……」

 定時はとっくに過ぎていて、亜美はチラチラと遥人の顔を見ている。


「分かったわ…… 他についでもあるから私がやっておくわ」

 菜々は亜美の手にしていた書類を受け取った。


「ええっ。でも……」

「いいの、いいの。私別に予定も無いし……」


「本当ですか…… すみません……」

 亜美は菜々に頭を下げると急いでオフィスを出て行った。


 二人の様子を見ていた遥人は急いで亜美を追い掛けた。


 遥人は亜美との待ち合わせの場所まで来た。


「亜美…… 仕事は?」


「どうしても、部長に会いたくて…… 菜々さんが引き受けてくれたから……」


「ああ、そうか」

 勿論、遥人だって二人の会話を聞いていたのだから知っている。

 少し前の遥人だったら、亜美の言葉を嬉しく受け取ったかもしれない……


 でも、今の遥人には亜美の行動を素直には喜べなかった。


「亜美…… 自分の仕事は責任もってやらなくちゃダメだ……」

 遥人も自分の言葉に驚いた。


「部長…… ごめんなさい……」


「いや、あやまるのは俺の方だ…… すまない…… 食事は行けない……」


「部長……行けないのは食事だけですよね?」


「本当にすまない…… 」

 頭を下げる遥人に、亜美は泣き崩れた……


 遥人は泣き崩れる亜美に、不本意な言葉は傷を深めるだけだと…… 

 そのままオフィスへと向きを変えた。