遥人は工場の前に車を停め中へと走った。


 工場の中は、すでに慌ただしい雰囲気で指示がなされていた。


 その中に菜々の姿があった。

 長い髪を一つにまとめ、ブラウスの袖をまくり、なり振り構わず工場の人達の指示に動いていた。


 遥人も鞄を放り投げ上着を脱ぐと、菜々の元へと駆け寄った。


「俺は何をすればいい?」


「私じゃない! 工場長の指示に従って!」


「ああ! 分かった!」


「絶対、間に合うから!」

 菜々の目からは切実な思いが溢れていた。

 そうだ! 絶対に間に合わせなければならない……


「工場長! 俺にも何か?」


 工場長と呼ばれ振り向いた男は、以外にも遥人と変わらない歳の男だ。

 作業着姿でさえ、いい男のオーラが出ている。


「工場長! 持ってきました」

 白いバンから飛び降り走ってきたのは時田だ。

「直ぐに! 奥のレーンへ持って行ってくれ!」

「はい!」

 遥人も時田と共に部品を運び出した。

 とにかく、明日の朝までに運送出来るようにしなければならない。


「菜々! 検査の済んだ物から梱包の用意しろ!」

 工場長の指示が出た。


「あっ。はい!」


 菜々が梱包の準備にかかる。


 しかし、なんといいう手際の良さだ。



 辺りを見回すと工場の中の人達も無駄のない動きの上に、文句ひとつ言わない。


 遥人は工場の中の動きに圧倒されていた。


 だが、胸の奥に何かが引っかかる、それは、さっき工場長が桜井の事を『菜々』と呼んだ事だ。


 普通、元請けの社員を名前で呼ばないだろ? しかも、呼び捨て…… 

 気になる……


 しかし、今はそんな場合では無い。


 とにかく、製品を明日朝までに間に合わせなければならない!