緑ヶ丘高校、入学式当日。

「制服よし!髪の毛よし!コンタクトよし!」



だだだだだだっっっ



「陽花!!静かに階段降りなさい!!!」

「はいはーい、ごめんなさ~い」

七瀬陽花、15歳。
今日から高校生1年生です!

「いってきまーす!」




新しい制服、新しい友達、新しい学校。
何もかもが新しい、高校生活に期待をふくらませながら、桜が舞い散る並木道を歩いていた。

「陽花ーー!!!おはよう!!!」

後ろから聞きなれた声が飛んできた。

「おはよう!結衣、夏恋!!」



姫川結衣(15)、はちみつ色のふわふわロングヘアーの、女子力高め女子。ピンクのカーディガンがお気に入りでいつも着用している。


成宮夏恋(15)、黒髪のポニーテールに白いリボンがトレードマークのサバサバ女子。水泳が得意。



2人は、私の中学時代からの親友。
受験という壁を乗り越えて、私達は晴れて、同じ高校に入学することが出来た。



「あーあ〜今日から高校生か~…」

「実感湧かないよね~」

「ってか、陽花~!コンタクトいいじゃん!
ね?夏恋!」

「うんうん!メガネよりそっちの方がいい
よ!」

「そうかな…?ありがとう!」


そう、私は、8年間連れ添ったメガネを卒業して、コンタクトをつけた。
中学時代地味だったから、少しでも変わりたくて。


「ねね!聞いて!私、絶対に良い彼氏つくって、キラキラの高校生活送るのが夢なの!」

突然に、まるで今から遊園地にでも行く子供のような満面の笑顔で、結衣が言った。


「何よ突然(笑)まあ、私も彼氏は欲しいけど
ね〜。陽花は?」

「私はそんなまだ…ね?」


彼氏…か…
私は彼氏どころか、まだ恋すらしたことない。
そりゃあ、恋したいし、彼氏だって欲しいお年頃。
(私も…好きな人とか出来るかな…?)


「ふふっ」

「陽花?」

「どうしたー?」

「ううん、何でもないよ~早く行こう!」






ガヤガヤガヤガヤ…

「やっっったああああああああ!!!!」

私達は周りの反応など気にせず、3人大声で叫んでしまった。

「3人同じクラスってすごくない!!?」

「絶対離れ離れかと思ったあああ~…」

「これで1年間一緒だー!!!」

喜びに浸る中、1-2の教室に向かった。



ガラッ


「おーー!太輔も隼人も瞬も一緒じゃん!」

「またお前らと一緒かよ!」

「よろしくな~」



小野太輔(15)、中学時代からの友達。
私にだけ意地悪したり、優しくしたりするから時々意図が分からない時がある。明るいテニスバカ。

堀川隼人(15)、中学時代からの友達。
身長が164cmと小さめながら、運動神経抜群。
ナルシストの野球好き。(巨人ファン)

小日向瞬(15)、中学時代からの友達。
知的なメガネ男子。読書(小説を読むこと)が大好きな優等生。こちらも野球好き。(阪神ファン)



「あれ?陽花コンタクトにしたんだ~」

「うん!まだ慣れないけどね(笑)」

「へ〜いいじゃんいいじゃん!」


隼人とは中学校からよく話す仲で、今もこうやって話しかけてくれる。


「な〜太輔?」


隼人は何やらニヤニヤしながら、太輔の方に首を傾けた。


「…べっつに~そんなんでほんとに見えてんの
かよ。ほらこれ見えんの~?(笑)」

「……っ!!!それくらい見えます!!!
バカにしないでよ!!!
ちゃんと 隼人はいいじゃんって言ってくれた
のに…誰かさんとは大違いだね~」

「別にそういうことじゃな…」

「ふんっ。結衣、夏恋行こう。」



太輔は昔からそうだ。
いつも私にだけからかったり、意地悪したり。
結衣とか夏恋には優しくするくせに。


「おい太輔〜あんなこと言っちゃってよかった
わけ〜?全く素直じゃないんだから。
せっかく俺がチャンスあげたのにさ〜(笑)」

「……うっさい!もうお前黙れ!!!」

「うるさいな2人とも!本読んでるんだから静
かにしろよ!」

「あーあ太輔のせいだ~」

「……っなんだよ。」







「もうなんなのあれ!!!
ほんと太輔ムカつく!!!
いいねの1つも言えない訳!?
いっっっも私にだけひどいこと言って!」

「まあまあ陽花落ち着いて~
もうそんなにムカつくなら言っちゃうけど、
太輔はね、陽花の…」

「夏恋!!!そ---いえばさー!!!
あの〜…えっと、あれほら!もう入学式始ま
るから体育館に移動しなきゃ!ね?」

「え?あ~そっかそっか。じゃあ移動しよう
か!」

「そうだね〜」

そして私達は教室を出た。
その時の結衣はホッとしているようだった。
どうして結衣は、焦って夏恋が何か言おうとしているのを止めたのか。
私には理解出来なかった。


「あ、私トイレ寄ってから向かうね!
夏恋もトイレって言ってたよね?
陽花ごめん、ちょっと先行ってて!」

「え!?私そんなこと言ってな…」

「じゃあ陽花またあとでねー!!」

「はーい」

結衣は乱暴に夏恋の腕をつかみ、猛ダッシュでトイレに向かってしまった。
私は、何事もなかったかのような返事を残し、1人体育館へと向かった。




「夏恋!!!なんてこと言おうとしてんの!!
もう少しで陽花にバレる所だったじゃん!」

「ええええ〜だって陽花あんなに怒っててかわ
いそうだったから、もう言ってもいいんじゃ
ん?と思って…」

「でも夏恋も分かってるでしょ?
太輔はああいう人なのよ」

「まあ~中学校の時からだもんね〜
もうバレバレだっつーの(笑)」

「こういうのは2人の問題だから、2人が解決し
ないと意味がないの。第3者が口出しするこ
じゃないからね!
夏恋!これからは気をつける様に!」

「ふぁ~い、ごめんなさ~い」






(うぅ〜…まだ寒いな〜)


体育館に向かうため、外にある渡り廊下を歩いていた。

(結衣と夏恋、遅いなぁ〜…
トイレって言ってたよね?そろそろ戻ってくるかな〜)

そんなことを思っていると、向かいから誰かが歩いて来た。





「あ!!!!!!」

私は思わず声を出してしまった。
それは、中3の時同じクラスだった、大嫌いな柴崎律だったからだ。


柴崎律(15)、中学時代同じクラス。
話しかけても反応が冷たく、休み時間はいつも1人で勉強していて、近寄り難い存在だが、運動神経抜群で、頭脳明晰。女子にモテモテのサッカー大好き男子。


私はこの冷徹人間が本当に大嫌いだった。
運動神経は良い、頭も良い、顔も良い。
この私でさえ、完璧な人だと思う。
ただ私は、柴崎律の性格に嫌悪感を抱いていた。
そして今、卒業式以来の最悪な再会を果たしてしまった…。