「ごめんね優衣。
お母さんとお父さん、離婚した」



そしてお母さんの綺麗な薄い唇はそう動いた。


私は驚きもしなかった。

だっていつかは訪れることだろうと思っていたし、それを知らされる事になるのは時間の問題だとわかっていたから。


「優衣はきっと気づいてたよね…
なのに何も言わないでくれてありがとう。
優衣の意見も聞くことも大事だと思ったけど、やっぱりこれはお母さんとお父さんの問題だと思ったから。
優衣に何も言わなかったの」


うん、お母さんとお父さんの問題だと言うこともわかる。

だけどきっとその裏には私のためってこともあったんだと思う。

それでも私を巻き込まなかったのは余計な心配されたくなかったんだと思う。


「うん……わかったよ、わかってた」

「優衣……事後報告でごめんね」

「いいよ、それに私前見ちゃったんだ。」

「なにを?」

「離婚届、お父さんがお母さんに渡そうと私に封筒を預けてきたの。
テーブルの上に置いといたけど、気になって中見ちゃったの……ごめんなさい」


そう、だからたとえ私が気づいても気づかなくてもそれを見てしまっていたからすべてわかっていたんだ。


「そうだったの……
それでもなにも言わないでくれたのは、きっと優衣に気を使わせてしまってたね。ごめんね」



お母さんは少し驚いたあとそう言った。


「謝らないでよ、私はお母さんとお父さん2人でちゃんと決めたことなら何も反対はしないよ。
2人が幸せならそれでいいの、どんな形でも」




だって2人は、私のたった2人の家族なんだから。


きょうだいもいないから、2人の他に私と血の繋がりが濃い人もいないし胸を張って"家族"といえる相手もいない。

だから2人は私の唯一無二の存在なんだ、たとえどんな人でも。


「優衣……ごめん、ありがとう」



お母さんの目から涙が1粒こぼれ落ちた。


そしてそれからとめどなく涙が溢れるお母さんの目。


私はそれを綺麗だと思いずっとずっとみつめていたい衝動に駆られた。