にわかに風が吹く。 季節はずれの金木犀の香りが鼻腔をついた。 そのとき、私は耳を疑った。 バイオリンの音が聞こえる。 タイスの瞑想曲だ。 私は、その場で腕と体とを動かして、目に見えないバイオリンを一生懸命弾いた。 楽しげなピッツィカートも、なめらかなスラーも、はっきりと聞こえる。心を込めた。 「いつの日か、もう一度会おう。」 この思いは届くかな。 演奏が終わったとき、とてつもない切なさを感じた。 これで終わりだと、なんとなくわかったから。