「花奏ちゃんって、泣き虫だよなぁ」
奏汰さんが困ったように笑いながら、私の頭をポンポンとなでた。
「泣き虫とか言われたことないよ」
これは事実。
たしかに私は泣かない人だった。
でも、それは本当に悲しいこととかがなかったんだと思う。
「目から汗が出てるよ?」
ああ。この人の笑顔は、柔らかい。
自然と口元が緩むけど、やっぱり涙が出てくる。
「ねえ、奏汰さん」
「ん?」
「もしも、行かないでって言ったらどうする?」
奏汰さんに行って欲しくない。死んでほしくない。
だけど、「行かないで」とはっきりいう事はできなかった。
「それでも行くよ」
奏汰さんが、ベンチをハンカチで拭いて、座った。私も彼に促され、腰を下ろす。
「日が沈むのが、こんなに早いなんて」
隣から掠れた声が聞こえた。
「今日の夜、町の人たちが小さな壮行会みたいなのをしてくれるんだ。
普段から、食べ物も酒も不足してるのに親切過ぎるよなあ」
「それはあなたがみんなに好かれているからだ」と心の中で答えた。
「……だから、太陽が全部沈んで、空が紺碧色になったら、帰るね」
さよならなんて、言いたくない。離れたくない。
それでも、茜空は時間を刻んでいく。



