台所から玄関に行くまでに、急ぎすぎて家具を蹴飛ばしてしまったからか、足が痛い。
それでも、走った。
風に体が持っていかれそうになっても走った。
普段は穏やかな相模湾も、今は荒れている。
国道の入り口に数人の男の人がたっているのが見えた。
……きっと、通行止めになったんだ。
「お嬢さん、ここは通れないよ! 家に帰りなさい」
予想は大当たり。
「ごめんなさい!」
おじさん達の間をすり抜けて、ただひたすら前へ足を出した。
やがて目に付いた錆びた階段を駆け上ってたどり着いた高台の、その向こう。
奥に進めば進むほど、胸の鼓動は速まるばかり。
雨に濡れ、風に揺れる金木犀の中に一人。
空を見上げる男の人がいた。
その姿を見たとき、私は時が止まったかのように感じた。



