「月が出てきたね」
八木さんが見ている方向には、紺色の空にぽっかりと浮かぶ月がある。

名残惜しさが押し寄せてきたけれど、ぐっとこらえて帰ることにした。
あまり遅くなると母が面倒くさい。

「また明日もこられる?」
「はい。行けます。」
「じゃあまた明日、同じくらいの時間に、ここで」
そっと耳打ちをされて、鼓動がはねる。小さなふたりだけの秘密が出来たかのようで嬉しかった。