「楽しかった?」
感傷に浸ってる私を現実に引き戻してくれたのは、デュオのお相手だった。
「楽しかったです。……でも、なんか切なかったです」
にわかに金木犀の香をきいた。
秋の香りの中で、僅かな静寂が二人の間に訪れる。
そして。
「それが、音楽なのかもね」
こぼれ落ちた彼の言葉には、どこか重みがあった。
「二度と同じ演奏なんてできない、一瞬の輝きだからこそ、美しくて、切ないんだろうな」
その通りだ、と頷く。
「まあ、これは君と演奏をしていて思ったことなんだけどね」
切れ長の目がふわりと三日月を描いた。つられて私の口角も上がる。
「いきなり話しかけちゃってごめんなさい!」
落ち着いたところで私は声をかけた。
あざといと言われてしまうかもしれないけれど、何が何でもこの人ともっと話したいと思ったから。
「こちらこそ、突然演奏させてしまってごめんね。
しかも勝手に途中から入っちゃったし」
それほど素敵な音だったんだ、と言ってくれた彼の表情はあまりにも明るくて、私には少しばかり眩しかった。



