メガネは外してたし、あたしのことを覚えてはいなかったけど。 あたしは会えただけで、すごく、すごく嬉しかった。 「ふふっ」 「……何笑ってんの」 「へ?」 あたし笑ってた? 「楠木、降りる駅どこ?」 「えっと、あ、次!」 昔のことを思い出してたら、結構時間が経ってたらしい。 「俺もそこで降りる。つか、なんでさっきまで上の空だったんだよ」 「え、ごめんなさい」 蛯原くんとの初めての出会いを思い出していたなんて言えない。 蛯原くんは覚えていないのだから。