「……沙綾」 「え……っ!」 名前を呼ばれて油断した瞬間、何かが軽くあたしの唇に触れた。 蛯原くんが、あたしにキスをしたのだ。 そっと触れた唇が、スローモーションのようにゆっくりと離れていく。 「って、呼んでもいい?」 まるで何事もなかったように首をかしげる蛯原くん。 「っっ!」 あたしの顔はまた真っ赤になる。 「どっ、どうぞ!って、今……き、キスした、よね」 頭がついて行かない。 「したよ。沙綾が俺の方見ようとしないから」