あたしの目元を、蛯原くんは軽く拭ってくれる。
「あたし、蛯原くんのこと……大好きだよ」
あの時は一度、嫌いって言ってしまったけれど。
あとから言った通り、大好きなの。
「……楠木さ、前に俺が那智さんと2人で会いたいって言って、会った時のこと覚えてる?」
蛯原くんが、那智に、好きって言ってくれた時のこと。
そんなの、鮮明に覚えてる。
忘れられるわけないよ。
あたしは、ゆっくりと頷く。
「覚えてるよ、しっかりと」
「そう……なら、あの時の言葉、誰に向けて言ったと思う?」
あの時の言葉……好きって言葉だよね。

