あたしは、うつむいたままだった。
さっきの人が相手なんだ。
蛯原くんがよかったなぁ、なんて。
何おかしなこと言ってるんだろうね、あたし。
「ところで、そちらの息子さんはどちらへ?」
……え?
あたしは顔を上げた。
「大変申し訳ないのですが、忘れ物をしてしまって……車に取りに戻っているのです」
頭を深々と下げ、申し訳なさそうにするその姿に、あたしは少しだけ安堵した。
よかった、少しだけど余裕ができた。
「そうだったんですか……では、どうしましょう」
少し困ったように言うお母さんに、あたしは言った。

