本当のあたしじゃ……ないけれど。
好きって言ってくれて嬉しかった。
車の中でゆっくりと目を閉じる。
あたしは、那智として蛯原くんとお見合いした日のことを思い出していた。
あたしが蛯原くんに、下の名前で呼んでもいいか聞いた時。
“いいですよ、じゃあ、俺も……下の名前で呼ばさせてもらいます”
そう言って……普段は見せない優しそうな顔で笑ってくれて、嬉しくなって泣きそうだった。
そんなこと、学校ではできない。
あたしにそんな勇気はない。
“俺、君みたいな子、結構好きだよ”
これは、最初に2人きりで話をした時に言われたこと。
あたし、あの後舞い上がっちゃって車に乗る時、頭ぶつけちゃったんだよね。

