少しうつむきながら言うと、蛯原くんから、そんなわけないだろ、と言う声が聞こえた。
「楽しかったよ、楠木のおかげで」
そう言った蛯原くんの表情はとても優しく、そして儚くて。
忘れることなんてできないだろう。
「ありがとう、蛯原くん」
今日の思い出は、あたしの頭の中に深くインプットしておこう。
これから先、今日のことを忘れてしまわないように。
蛯原くんの笑顔を……ずっとずっと、覚えていられるように。
それからあたしは、蛯原くんとの会話を楽しんだのだった。
……その会話さえも忘れないように気をつけながら。

