梓奈が向かったのは、中学生の時に同じクラスだった義経君の家。自転車で10分くらいのところだった。
 自転車をこぎ温かい風を顔に浴びながら、心臓がどくんどくんといつもよりも早く打つことに気づいた。
「わたし、緊張してる」
 
 義経君は眼鏡をかけていて無口で本が好きな真面目な男子だ。
 
 顔が好き? うん、もちろん。他には?

 声も好き。彼を包む空気が好き。

 中学校を卒業して会うことが無くなってしまってから、梓奈の心にぽっかりと穴が空いてしまったように感じた。
 だから今日のこの日を待っていたのだ。

 好きって伝えたい。

 ただそれだけ。付き合いたいとか、そんなんじゃない。
 
 だって彼はきっと自分のことなんて何とも思ってない。