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「じゃあ、あまのじゃくさんによろしく言っといてね」

かすみは最後まであくまで古賀くんの味方をしたまま譲らなかった。

(何がよろしくよ……)

他人事だと思って面白がって……。

マンションに帰る道すがら、私はかすみの言葉を反芻していた。

“絶対お姉ちゃんに気があるでしょ?”

(ないない……)

かすみの世迷い事をおにぎりのようにぎゅむっと小さく丸めて思考から追い出す。

私がしなきゃいけないのは、離婚を言い渡されるその日まで大人しく従順な妻を演じることである。

そのために必要なのは情に流されないこと。

古賀くんが甘えたになろうが、あまのじゃくになろうが。

(流されない、流されない)

念じるように己に言い聞かせながら、気合を入れて玄関の扉を開けると……。

「ああ、帰ってきたのか」

……当の本人が風呂上がりの古賀くんが肩にタオルを引っかけて廊下を歩いているではないか。